ラティアの月光宝花
背後へ回ったヨルマの向こうに馬上のオリビエとマルケルスが見える。

「セシーリア!!」

「オリビエ、マルケルス!!」

マルケルスが手綱を引き、馬が嘶きながら止まる。

「お母様が!」

悲鳴のようなセシーリアの声に二人が頷いた。

「アイリス様はもしかしたら城外に連れ出されたかもしれない。僕達は先に王をお助けにいく。セシーリア、ここで待っていろ」

「ディオ殿、軍議塔の中の敵兵の数は?!」

「伝令係の情報ではサージアの残兵はおよそ百かと。ですが、王のご生存が確認できていません」

その言葉にオリビエの顔が更に険しくなり、彼は急かすように言った。

「行くぞ、マルケルス」
 
「ああ!」

「待って!私もいく!」

「何言ってる!ダメだっ!」

オリビエが声を荒げたが、セシーリアは引かなかった。

それどころか、敢然と口を開くと強い口調でこう言いきった。

「私はラティアの王女よ。いずれこの国を背負って立つ者。なら、今ここで逃げるわけにはいかないわ!」

「バカ言うな!軍議塔の中がどんな状況かも分からないんだぞ!?」

マルケルスが苛立たしげに叫んだが、そんな彼にヨルマが視線を合わせて短く鳴いた。

なんなんだ、このふたりの眼は。

夢見がちだとばかり思っていたセシーリアが、こんなにも燃えたぎるような瞳をするとは。
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