ラティアの月光宝花
そしてこの大豹は、まるで前世からセシーリアを守ってきたかのように寄り添っているではないか。

息を飲むマルケルスにセシーリアは更に訴えた。

「マルケルス。私を信じて」

言い終えて、煤に汚れた頬をグイッと拭ったセシーリアの傍で、再びヨルマが雄々しい鳴き声を響かせた。

「……ヨルマ。お前がセシーリアを守ると言うのか?!」

当たり前だと言わんばかりにヨルマが両の牙を見せた。

……参った。もう反対はすまい。

「なら、一緒に行くぞ!」

三人と一頭は、決意を込めた視線をぶつけ合うと軍議塔へと飛び込んでいった。


****

広い軍議塔の中は無残であった。

煙と血の混ざった臭いが充満し、そこやかしこに剣の打ち込まれた傷や矢の穴が開き、調度品は無惨にも地に叩き付けられていた。

敵兵の上に味方の兵が折り重なり、仕掛けが施された床は大勢の兵達を飲み込んでいたが、まるでまだ足りないと言ったように口を開けている。

前方の遥か向こうからは叫び声がするが、王の姿は見えない。

敵の攻め込みを想定し、無数にある階段はその殆どが仕掛け階段である。

軍議塔は当然の事ながら、限られた者しか出入りを許されていない。

「確かここには城外と宮殿に繋がる二種類の地下道があるだろ?」

「らしいな。だが俺達はまだ隠し通路を知らされてない」

当たり前である。
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