ラティアの月光宝花
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「……眠れないわ」

天蓋付きの寝台の中で、セシーリアは何度も寝返りを打ちながら、最終的にはこう呟いて身を起こした。

窓から差し込む月はとても明るく、またしてもセシーリアはオリビエを思った。

オリビエは……もう眠っているのだろうか。

それともまだ起きていて、この月を見上げているのだろうか。

……もしも……もしもこの月を見上げているのだとしたら、オリビエは何を思っているのだろう。

淡い期待とそれを否定する切ない気持ちで、たちまち胸がキュッと軋む。

セシーリアはホッと息をつくと部屋を抜け、狭い廊下を通りその先の番兵に声をかけた。

「中庭へ散歩に行く。アメリアは起こさないで。すぐに戻るから」

セシーリアの部屋を守る番兵達は、彼女の言葉に頭を垂れた。

アメリアとは、セシーリアの乳母である。

近頃は疲れやすく、体調を崩しがちであった。

そんなアメリアを、自分の恋煩いで叩き起こすのは忍びない。

セシーリアは音を立てず、滑るように歩いた。

自室の廊下の先は、宮殿内の幅の広い廊下へと繋がっていて、そこは等間隔に置かれているランプのおかげで昼間のようだ。

ラティア城内は、宮殿の中に限らず庭でも使用人達の居住地区でも常に明るい。

他国では蝋燭やランプの原料が非常に貴重で、夜は鐘の音と共に一斉に灯りが消される国もあるというが、ラティア帝国にはその心配がない。

なぜならラティアは温暖な気候と肥沃な土壌が豊富で植物がよく育ち、ミツバチの生息に大変適した国であるからだ。

ラティアのミツバチは質の良い蜂蜜を作り、その巣からは蝋燭の原料となる蜜蝋がとれる。
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