ラティアの月光宝花
いくら王の側近の息子であろうが軍事に携わる前のオリビエやマルケルスは、軍議塔に入ることすら許されていなかった。

知っているのはせいぜい軍議の間と呼ばれている、出入り口近くの広間ぐらいだった。

「どうする?!」

マルケルスの問いに、オリビエより早くセシーリアが答えた。

「ヨルマについていきましょう。ヨルマ、お父様の居所がわかる?」

ヨルマはもうその前から、クッと顔を上げて集中していた。

首を目一杯伸ばし、耳を忙しなく動かしていたヨルマがやがて小さく鳴く。

どうやら付いてこいと言っているらしく、前方に倒れている兵達をヒラリと飛び越えた。

「ヨルマについていきましょう!」

*****

ヨルマの活躍で三人は、思いの外早く目標に到達した。

軍議塔に隠された地下道へと続く隠し扉を、速やかに見つけたのだ。

ディオの言う通り、城内のラティア軍がサージア軍の制圧に成功したようで、新たな敵の攻め込みはなかった。

しかし……。

三人は扉の前で絶句した。

「この壁の向こうが隠し通路なの?」

セシーリアの戸惑いをまとう声に、マルケルスが低く呟いた。

「……多分な。何処かに壁を開ける仕掛けがある筈だ」

マルケルスが舐めるように壁を見る後ろで、オリビエが静かに口を開いた。

「……この向こうは地下通路へ続く筈だ。だとしたら、中は暗闇だ」

言いながらオリビエは、反対側の壁に固定されていた腕木の松明に手を伸ばした。

それから、引き抜く前の松明の柄を、真下の窪みに入れたかと思うとグッと押す。

「扉が……!」
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