ラティアの月光宝花
同じことを考えていたであろうオリビエが、前方を見据えたまま押し殺した声を出した。

「マルケルス。この仕業はサージア兵じゃない。サージアが我がラティア兵をこれほどまでに討てるとは思えない」

その時だった。

「なかなか勘がいいじゃないか、オリビエ。だが手遅れだ。もう遅い」

最悪の事態だった。

辺りの空気を震わすかのように、聞き覚えのある声が響く。

その声にたちまちヨルマが両の牙を剥き出して唸り声を上げた。

「ラティアの姫よ、その野良猫を黙らせろ!」

急に幾本もの炎が辺りを照らしたとき、セシーリアは悲鳴を上げそうになった。

距離はあるがその姿を他と見間違えることはない。

信じられない事にそこには、捕らえられたラティア国王、ロー・ラティアとレイゲン・ドゥレイヴ、それに膝をついたまま動かないマルケルスの父、ユリウス・ハーシアがいたのだ。

……お父様……!

「父上……!父上!」

「皇帝陛下!」

三人は眼を見開いて立ち尽くし、それを見た人物が唇を大きく開けて高らかに笑った。

なんとそれは、イシード帝国皇帝カリムその人だった。

「ユリウス・ハーシア……ラティアきっての豪傑武将を父に持つとは、さぞかし誇りだっただろう。だがそれももう終わりだ」

片足をあげて、カリムがユリウス・ハーシアの背中を押すように蹴った。

それと共にマルケルスの父の身体がゆっくりと崩れ、地に伏す。

ユリウス……!!
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