ラティアの月光宝花
「許さん……!そんな事は!」

「黙っていろ、老いぼれ!」

苦しい息の下からラティア皇帝ロー・ラティアが声を絞り出すと、カリムが苛立たしげに叫んだ。

その声にヨルマが身を低くし、今にも飛びかからんばかりに牙を剥く。

「こんな卑劣な作戦に出るような人を私が愛すわけないでしょう?!」

またしてもカリムが鼻で笑った。

「俺だって夢見がちな小娘なんぞに興味はない。イシードもラティアも所詮は帝国。綺麗事じゃ国は大きくならない」

ここまで言って一旦言葉を切ったカリムが、セシーリアを見据えて改めて口を開いた。

「さあ、セシーリア姫。先程の言葉を民に告げると約束を」

その時であった。

「グフッ……!」

「きゃああっ!」

ロー・ラティアがうめき声をあげたかと思うと大量の血を吐いてガクリと頭を垂れた。

「お父様!」

「支えろっ!」 

カリムは崩れ落ちそうなラティア国王に思わず手を伸ばした後、ギリッと歯軋りして叫んだ。

「毒だ!毒を飲んだな!?」

カリムに顎を掴まれ、無理矢理上を向かされたロー・ラティアが、不敵に笑った。

「それが……どうした」

ロー・ラティアは頭を振ってカリムの手から逃れると、のめり込むようにセシーリアを見た。

「セシーリア」

「お父様っ」
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