ラティアの月光宝花
「なんだと?!」

マルケルスが唸るように呟き、セシーリアは目を見開いた。

レイゲンの代わりにオリビエを人質に……?!

互いの顔を見つめ合ったオリビエとセシーリアを見据えて、カリムは僅かに両目を細めた。

……近い将来、必ずこのオリビエ・ドゥレイヴはイシード帝国……俺にとって目障りな存在になるだろう。

だが、敵ながら今ここで殺すのも惜しい。

どうせなら再び、互いに心置きなく力をぶつけ合って雌雄を決したい。

オリビエに苦い砂を食わせ、愛する女を奪うにはやはり戦しかないのだ。

「オリビエ。お前が人質になるなら父を解放しよう。返事次第ではラティアに未来はないぞ。兵を増やして国中を完膚なきまでに焼き尽くしてやる」

カリムはグッと唇を引き結ぶとオリビエを真正面から見据えた。

「……セシーリア……要求をのもう」

「オリビエ!」

離れそうになる腕を咄嗟に掴み、セシーリアはオリビエを見上げる。

そんなセシーリアにオリビエは顔を寄せて囁いた。

「父上をお救いするにはこれしか方法がない」

「だけど、それじゃ、」

オリビエが、右手の平でセシーリアの頬に触れて少しだけ笑った。

「大丈夫だよ、セシーリア」

「だ、けど」

瞬く間にセシーリアの瞳に涙が浮かび、頬を伝った。
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