ラティアの月光宝花
蜜蝋は蝋燭だけに留まらず、香草や油と混ぜて肌の保湿や手入れに利用出来る。

養蜂業が盛んなラティア帝国は、国外からもその需要が高く、ミツバチから得る収入が国益と直結していると言っても過言ではないのだった。

セシーリアは、そんな甘い蜜のような光の中を進みながら思った。

……今年の蜜祭りには……街の女の子達と同じように、私も蜂蜜入りの焼き菓子を作りたい。

ラティア帝国には、ミツバチに感謝し、年に一度ある分蜂(蜜蜂達の巣分け)の季節に盛大な祭りが執り行われる。

一週間続くその祭りで、街の女達は好きな男のために蜂蜜のたっぷり入った焼き菓子を手作りして贈るのが昔からの習わしであった。

男は相手を気に入ったなら、蜜入りの化粧品を贈りかえす。

セシーリアはそんな恋の風習の中にいつか自分も飛び込んでみたいと夢見ていたのだった。

「おい聞いたか?今から二番隊のアデルが、レイゲン殿の御子息とスティーダ(長剣)の手合わせをするそうだぜ」

中庭の池の傍の石段に腰を下ろしたばかりのセシーリアの耳に、勤務時間を交代して宿舎に戻ろうとしていた近衛兵の会話が飛び込んできた。

「オリビエ殿か?!アデルは二番隊の中でもかなり腕がたつぞ?!なんだってそんな無謀な事をオリビエ殿は……」

ここまでの会話を聞いてセシーリアはいても立ってもいられなくなり、武術練習場へと走った。

武術練習場は、近衛兵の宿舎のすぐ隣にあり、ここからだとかなりの距離である。

このまま走り続けたとしても、たどり着いた頃にはオリビエと近衛兵アデルの手合わせは終わっているかもしれない。

「近衛兵!」

「これは……セシーリア様」
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