ラティアの月光宝花
「……はい……女神ディーア」

歌鳥よりも美しく、気品に満ちたディーアの声は、空気に混ざる度に煌めく粉を散らした。

セシーリアはその宝石のような粉を美しいと思いながら、ディーアの前で静かに身を起こす。

……なんて綺麗なの……。

セシーリアの心に、守護神ディーアと会えた喜びが広がった。

だがそれは瞬く間に深い悲しみに飲み込まれてかき消される。

セシーリアはディーアの全身を穴の開くほど見つめた。

身体にまとわり付くような艶やかな長い髪と美しく整った顔立ち。

身に付けている絹のマントはこれ以上付ける隙間がない程たっぷりとしたヒダで飾られ、黄金色の軍服はキラキラと輝くばかりで焦げ跡もなければ剣のキズ一筋もなかった。

一方ラティアの兵士達は戦いの傷跡が深く、全身ボロボロである。

守護神とは……困難から国を救ってくれる存在ではないのか。

どうして……どうして女神ディーアはラティアを守ってくださらなかったのだろう。

守護神であるディーアがカリムから守ってくれさえしていれば、こんな事にはならなかったのに。

その時、

「そなたの気持ちはよく分かる。セシーリア・ラティア」

「っ……」

ディーアの美しい切れ長の眼は何の曇りもなく真っ直ぐにセシーリアを捉えていて、その眼を見つめたセシーリアはコクンと喉を鳴らした。

なんという清洌な眼差しなのだろう。

だからといって冷やかなわけではなく、ただただ潔い。
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