ラティアの月光宝花
こんな眼を見たら、恨みがましい台詞など言える訳がなかった。

きっと……神であるディーアにも事情があるのだ。

互いの視線が絡んだ後、先にディーアが口を開いた。

「私はアイリス・ラティアの願いを叶える為、そなたに会いに来たのだ」

お母様の……願いを?

その時、幼い頃に巫女長から聞いた話が胸に蘇った。

『たとえ何が起ころうとも守護神を恨んではなりません。人の世に介入した神は最高神アンシャレクに罰せられるのです』

そうだ。確かに巫女長はこう言っていた。

その直後、もうひとつ思い出したセシーリアの胸に、ギュッ痛みが走る。

ああ、お母様……。

神に願いを叶えられた人間は、既に死んでいるのだ。

「お母様は……どこですか」

「亡骸はない。願いの大きさ故に残らなかった」

何故と聞きたい気持ちを、セシーリアは何とか堪えた。

聞いても仕方がない。

これはきっと、お母様と守護神ディーアとの間で決まったことなんだわ。

「守護神ディーア。感謝いたします」

セシーリアは大きく息を吸うとそれを静かに吐き出して、ディーアに頭を下げた。

「女王アイリスの願いを、今叶える」
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