ラティアの月光宝花
ポタリポタリと落ちて光るセシーリアの涙を見ていたディーアが、やがて静かに口を開いてこう言うと、弓を持つ手をセシーリアへと伸ばした。

「……アイリス・ラティアの願いは、戦いの中でお前の命を守ること。だが私がお前に付く事は許されない。だからこれを」

「これは……」

ディーアが深く頷いた。

「この弓と矢は私がラティア帝国の守護神となった日に、最高神アンシャレクから賜ったものだ」

最高神アンシャレク……!

「そんな大切な物を受け取れません」

驚いて首を振ったセシーリアにディーアは続けた。

「お前は私を、約束を守らぬ卑怯な神にしたいのか」

「いいえ…!でも私、」

焦ったセシーリアにディーアはクスリと笑った。

「少しの時間貸すだけだ。さあ、受け取れ」

恐る恐る両の手のひらを差し出したセシーリアに、ディーアは弓矢を手渡して続けた。

「アイリス・ラティアの願い、しかと叶えたぞ。この弓矢は必ずお前を守るだろう」

その時であった。

「何も出来ないならさっさと弓をおいてお空に帰って星でも数えてろよ、女神サマ」

艶やかな低い声が神殿中に響き、セシーリアは弾かれたように入り口に顔を向けた。

「誰?!」

そこに立つ男性の姿をよく見ようと、無意識に両目を細める。
< 127 / 196 >

この作品をシェア

pagetop