ラティアの月光宝花
セシーリアは蹄の音を振り返り、その馬上に近衛兵の象徴である赤いマントを見つけると、早口で言った。

「名前は?」

「ディオと申します」

「ディオ、悪いんだけど馬を貸して!」

「あ……しかし……はい!」

夜着一枚で馬に乗ろうとするセシーリアに些か戸惑ったものの、ディオは慌てて彼女に馬を差し出し、自分のマントを急いで外すと小さく頭を下げてから、セシーリアの腰にそれを巻いた。

「あなた、優しいのね。ありがとう」

馬で駆けると翻るであろう夜着姿を心配し、ディオが巻いてくれたマントを見ながらセシーリアは礼を言うと、馬によじ登り、鐙に足を掛けてその背にまたがった。

「お気をつけて!」

明るい城内は、馬で駆けるになんの問題もなかった。

セシーリアは噴水の傍から、眼下に広がる練習場を見下ろした。

ここからなら、中に入らずとも手合わせの様子がよく見渡せる。

セシーリアは馬にまたがったまま、練習場の中央でスティーダ(長剣)を手にしたオリビエを見つめた。

オリビエとアデルの周りには、この手合わせを見届けようとする十数名の人間が円を作っていた。

「スティーダが手から離れたらその時点で負けだ」

……アンリオンだ。アンリオンがアデルとオリビエの間に立ち、二人を交互に見ながらそう言った。

「はじめ!」

アンリオンの声を合図に、二人が距離をとってスティーダを構えた。

途端に皆が傍を離れ、歓声が上がった。

「オリビエ!アデル殿は二番隊長の右腕だ。思いきり胸を借りろ!」
< 13 / 196 >

この作品をシェア

pagetop