ラティアの月光宝花
「アンリオン!」

頬にザックリと傷を負ってはいるものの、アンリオンの眼には強い輝きが宿っている。

セシーリアはそんなアンリオンに駆け寄ると、その身体にしがみついた。

「アンリオン!無事で良かった!」

ところどころ変形した鎧、裂けて焦げたマント。

眼に映るアンリオンのそれらに、セシーリアは彼もまた生死の狭間にいた事実を知る。

「ほら、いつまでこうしてる気だ。俺にも久し振りな顔を拝ませろ」

セシーリアの二の腕を掴んで身を離すと、アンリオンはゆっくりとシーグルへ近付く。

「久し振り。アンリオン」

状況が悲劇的なだけに笑顔はない。

「お前、でかくなったな」

オリビエ、マルケルス、アンリオンの三人の中で、一番長身でがっしりとした体格の持ち主はアンリオンである。

シーグルはそんなアンリオンに負けるとも劣らないほどの背丈にまで成長していた。

「この三年間《エルフの風》にいたんだ」

シーグルのよく日焼けした精悍な顔を、アンリオンの手の平が優しく叩く。

「知ってるさ。グロディーゼ(剣闘士)にでもなるつもりなのか」

片方の口角を引き上げて皮肉げに笑うアンリオンに、シーグルが真顔で答える。

「いいや。けど三年前とは状況も考えもすっかり変わった」
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