ラティアの月光宝花
そんなヨルマの様子を見てセシーリアがすかさず、

「ヨルマが嘘だって言ってるわよ。本当は養成所の中に隠れてたんじゃないの?」

「……」

眼をそらすシーグルに、セシーリアは我慢できなかった。

「どうしてもっと早く帰ってきてくれなかったの?!私、結婚しなきゃならないとろだったのよ?!そうなったらもう、あなたと話したり出かけることもままならなくなるのよ?!」

怒りに震えるマラカイトグリーンの瞳。

……避けては通れない質問に、シーグルは観念した。

「……宿についたぞ。その話は後だ」

****

「入るぞ。猫はどっか行ってろ」

その物言いに、ヨルマがガッと牙を剥く。

「ヨルマっていうちゃんした名前があるのよ。ヨルマ、後でね。夜が明けたら森から出てくるのよ」

ラティア城から五百マイルほど南東に下りた街で、ふたりは小さな宿に入った。

食事は頼まず風呂と寝床だけを用意させると出口から一番近い部屋に入る。

「さあ、三年間の出来事を話しなさい」

グッと顔を寄せるセシーリアに、シーグルは溜め息をついた。

「そんなの聞いてどうするんだ」

鎧と武器、荷物を部屋に置くや否やセシーリアはシーグルを見据える。

「あなたは大切な弟みたいなものよ?!心配するのは当然でしょう?!」

……弟……。

シーグルは口につけていた水筒をゆっくりと下ろすと、視線を下げてセシーリアの瞳を見つめた。
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