ラティアの月光宝花
……セシーリアはあの時の事を覚えているだろうか。

薔薇園でのあの出来事を。


『俺じゃダメなの、セシーリア』

『俺はセシーリアが好きだ』

『今はまだ、セシーリアを兄さんに預けておく。でもいずれセシーリアは俺が守る。兄さんよりも強くなって』


……あの頃俺は……随分子供だった。

今は……分かっている、願っても叶わないものの存在があることを。

シーグルは深くため息をつくと投げ槍な口調で言葉を返した。

「俺は強くなるために城を出たんだ。そんなに早く帰れるわけないだろ」

「あなたは私に会えなくて辛くなかったの?!私は会いたくて会いたくてたまらなかったのよ?!」

「……セシーリア……」

涙をいっぱいに溜めたセシーリアの瞳を見て、シーグルは言葉を失う。

一方セシーリアも分かってはいたし、覚えてもいた。

けれど大切な人を殺され奪われた悲しみとシーグルの帰還が重なり、感情を抑えることが出来なかったのだ。

「……今まで放っておいて悪かった。……王や父上達を守れなくてごめん、セシーリア」

セシーリア背中に腕を回すと、シーグルは彼女を引き寄せて胸に抱いた。

「シーグルッ……!」

「……泣くな。兄さんは必ず俺が取り戻してやるから」

低くて優しいシーグルの声と熱い身体。

何度か深呼吸を繰り返すと次第に落ち着きを取り戻し、セシーリアは少し身を起こしてシーグルを見上げた。
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