ラティアの月光宝花
マルケルスが大きな声でそう言うと、オリビエが彼を見て笑った。

その落ち着き払ったオリビエの綺麗な瞳に、セシーリアは息を飲んだ。

知らず知らずのうちに、手綱を握る手は汗ばみ、力がこもる。

オリビエ、オリビエ。

スティーダは、両刃の長剣である。

練習用に刃がない事を除けば、長さも重さも戦闘用と全く同じ作りだ。

女であるセシーリアには重かったが、オリビエもまた、セシーリアとの手合わせではいつも重そうにしていた。

なのに……今は……。

眼の前のオリビエは、アデル相手に難なくスティーダを振り回している。

時には片手、時には両手で。

アデルの一撃をオリビエは半回転しながら素早くかわすと、今度は重心を低く保ち、アデルの足元に狙いを定めた。

アデルが器用に自分のスティーダでオリビエのそれを跳ね返すも、オリビエは体勢を崩すことなく次の一撃をアデル目掛けて打ち込んだ。

重い金属音と二人の息遣いが練習場に響き渡り、それが斬り結ぶ激しさを物語っている。

セシーリアは信じられなかった。

今アデルと戦っているのは、本当にオリビエなんだろうか。

地を蹴ってアデルの頭上に剣を振り下ろそうとしているオリビエは、まるでセシーリアが知らない男に見える。

乱れて額に振りかかった髪の下から覗く鋭い眼差しはまるで獣のようだ。

しかもセシーリアとの稽古の際、オリビエは必ずと言っていいほど袖の長い服を着ているが、今は肩まで露になった袖のないトゥナという男性用の服を着ていた。

その逞しい筋肉の張った二の腕に、セシーリアは見惚れた。
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