ラティアの月光宝花
「シーグル」

「ん?」

「ダメだわ、私。不安が消えないの。こんな風にあなたに八つ当たりするなんて……情けないわ」

胸の内を素直に口にするセシーリアを可愛く思いながら、シーグルは優しく彼女を見つめた。

「こんな事になったんだ。すぐに立ち直るなんて無理だ。気にするな」

セシーリアは一生懸命涙を止めようとしながら続ける。

「シーグル、ごめんなさい。もう泣かないと決めたのに……私ったらなんて弱いのかしら。お父様達の敵を討ち、オリビエを取り戻すまでは泣かないと決めたのに」

セシーリアは震えるように息を吐き出すと、再び口を開いた。

「これで最後よ。悲しみに泣くのはこれが最後。次に泣くときはイシード帝国を討ち、オリビエを取り戻したその時だと約束するわ」

自分に言い聞かせるようにしながらグイッと手の甲で涙を拭ったセシーリアを見て、シーグルはわずかに笑った。

「ああ、そうだな。次は嬉し泣きだ」

ユラユラと揺れる蝋燭の炎が、決心したセシーリアの頬を頼りなく照らしていた。


****

替え馬に乗り継ぎ、セシーリアとシーグルがエシャード城に到着したのはそれから十日後の事であった。

「セシーリア女王陛下。生誕大祭典には私自らがご挨拶に赴けず申し訳ございませんでした。そしてよくこのエシャード城にいらしてくださいました」

国境から一番近い都市領主は王の指示がない限り都から離れてはならない。

それは周知の事実であるので、ライゼンはこの発言に対するセシーリアの返事を待つことなく先を続けた。
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