ラティアの月光宝花
「ライゼン?ライゼン、大丈夫?」

セシーリアの心配気な声が、ライゼンの思考を打ち切った。

「おお、これは失礼いたしました。このようにセシーリア女王陛下とお会いできるなど夢のようで、つい」

「あっはははは!ライゼン、その嘘ホント?」

弾けるような笑い声に、思わずライゼンが顔をあげる。

「こら、セシーリア。ライゼン殿が呆れているだろ。バカ笑いするんじゃねえよ」

「だって、女王の前だからって粗相のないようにと気をつかってるのが可哀想だし、だからってわざとらしくて笑っちゃうし」

「お前なあ……」

護衛兵の溜め息混じりのその言葉に、ライゼンは更に眼を見張った。

……お前?

女王陛下に対して、お前。

「ライゼン、シーグルの言葉遣いは悪すぎるけど、あなたもそんなにかしこまらないで。だって、学ぶべきは私だもの」

「……」

「……あの、ライゼン?」

……馬鹿馬鹿しい。茶番劇に付き合ってなどいられない。

子供のようなこんな姫君が、ロー・ラティアの跡継ぎとは先が思いやられる……いや、先など無いに違いない。

きっともうこのラティア帝国は終わりだ。

こんな子供が治める国が、あのイシード帝国に勝てるわけがない。

いや、今度はイシードどころか北のサージアが我先にとラティアを手中に収め、領土拡大を謀るだろう。

だとすればこんなことをしている時間も惜しい。

巻き添えなどごめんだ。

侮蔑の表情をなんとか隠したライゼンが、ゆっくりと立ち上がった。

「おもてなしの用意は整っております。女王陛下、どうぞごゆるりとこのエシャードを楽しんでくださいませ。私は公務がありますゆえこれにて失礼いたしますが、城から南へしばらく下がりますと土産物屋や見世物屋などがあり、観光にもってこいです」
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