ラティアの月光宝花
踵を返したライゼンのマントがヒラリと揺れる。

「待ってライゼン!ヨルマ」

セシーリアの声に、ヨルマが地を蹴りヒラリとライゼンの頭上を飛び越えた。

「っ!」

大豹に進路を奪われ、ライゼンの足が止まる。

その背中にセシーリアは語りかけた。

「ライゼン。あなたからすれば私はまだ幼く経験もなく、さぞかし頼りない女王でしょう。でも私に付いてきて欲しい。後悔はさせないわ」

後悔はさせない?

本気で言ってるのか?それとも……言わされているのか。

ライゼンはセシーリアの真意を見極めたい思いでゆっくりと振り返った。

無礼だと罰せられるとしても構わない。

どうせなら真正面から何もかもを確かめたい。

華奢な身体とこの上なく美しい顔立ち。

しかしその着衣は質素で、身を飾る宝石は何一つとして見当たらない。

たったひとりの友人のような護衛兵、それからまるで猫のように懐いている大きな豹。

「……」

「……」

互いの視線が絡んだまま時が過ぎる。

長い長い沈黙の後、漸くセシーリアが静かに口を開いた。

「ライゼン。私はなんとしてでもイシード帝国を討たなければならない。そのためにはあなたの力がどうしても必要なの」

「ではこのライゼンをどのようにしてその気にさせるおつもりか?まさか地方統治者以上の閑職を与えてなだめ、眼をくらませようとでも?」

その皮肉げなライゼンの瞳に、ムッとしたシーグルがスティーダをもつ手に力を込めた。

すかさずそんなシーグルをセシーリアが止める。

その時だった。
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