ラティアの月光宝花
それから、それから……女王の背に光る金色の弓矢。

ライゼンはその弓矢に見覚えがあった。

あれは……数年前ラティア城へ赴いた際、確かに見た記憶がある。

「セシーリア女王陛下。その弓はもしや……」

「これは守護神ディーアにもらったのよ。信じられないかも知れないけど」

……やはりそうか。これを以前、俺はラティア城内の神殿で見た。

ライゼンには、少しでも興味を引いたものを細部まで鮮明に記憶する能力がある。

模造品ではない。

これは、希望の弓……守護神ディーアの弓矢だ。

エルフの街で確かに民がそう呼んでいたのを、ライゼンは聞いていたのだ。

ディーアの弓矢は《希望の弓》だと。

守護神ディーアの像が空に向かって引いていた弓矢は、まさにこれに間違いない。

ライゼンはゴクリと喉を鳴らした。

……いいのか。女王を信じてついていっても。

エシャードには自分を心から慕う民がいる。

決断が出来ない。ライゼンにとって民は友人で宝だからだ。

俺の決断が失敗だとしたら、大勢の民が死ぬのだ。

目の前の君主は、忠誠を誓うと即決するにはあまりにも頼りない。

これが屈強な男であればこれほど迷わなかった。

しかし。

しかし、女王は守護神ディーアの弓矢を携えている。

神が人間に何かを授けるのはよほどの事だ。

「ライゼン、心を決めぬか!」

ライゼンの父、先代のギルーザ・エシャードが厳しい口調で言い放った。

そんなギルーザの前で、ライゼンはユルユルと頭を振った。
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