ラティアの月光宝花
「おい、待てよセシーリア」

「っ!!」

後ろから腕を掴まれて、セシーリアは全身を強張らせた。

そんなセシーリアの眼に美しい瞳が映る。

榛色の瞳…オリビエ……?ううん、違う。

オリビエはもう少しだけ、ほんの少しだけ薄い榛で……。

「おい、しっかりしろ!」

憑かれたようなセシーリアに苛立ち、彼女の二の腕を掴んだシーグルがそれを揺らした。

「ボケッとすんじゃねえ!」

「っ!!」

身体の揺れと痛いくらい掴まれた腕の感覚に、セシーリアは我に返った。

「……大丈夫。長旅で少し疲れただけよ」

ぎこちなく視線を反らしたセシーリアに、シーグルは更にイラつき、吐き捨てるように言葉を返した。

「……先に言っておくがお前、戦線には出るなよ」

「っ!!」

ビクリと背筋を振るわせたセシーリアを、シーグルが一瞥する。

「……なんだその反応。出るつもりだったのか。お前は女……」

「女だからなによっ?!」

宮殿内を行き交う者達が、セシーリアのわめき声にギョッとする。

「女だからなに?!弱いから戦線には立つなと?!」

無力だと決めつけられて、セシーリアの全身に屈辱の黒煙が広がっていく。

「おい、落ち着け」

シーグルは、予想外のセシーリアの反応に眼を見張った。

「どうして?!どうしてよシーグル!バカにしないでっ!」

「馬鹿になんかしてない」

「じゃあなに?!私はラティアの女王よ?!戦線に立たないなんて女帝じゃないわ!それに私には守護神ディーアの弓がある。この弓は、」

いい加減にしろよ。

シーグルのイラつきが最高潮に達する。
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