ラティアの月光宝花
「ああそうだ!お前が弱いから戦線になど立たれたら大迷惑なんだよっ!」

叫ぶセシーリアよりも更に大きな声でシーグルが言葉を放った。

「……なんですって?!」

シーグルは大きくため息をつくと諭すように口を開いた。

「……ディーアの弓を過信するな。お前は生身の人間で不死身じゃないんだ。ここで死んだらどうする?!一生兄さんには会えなくなるぞ」

オリビエに……会えなくなる。

そんなの……耐えられない。

シーグルの言葉にセシーリアが二、三度瞬きし、僅かに首を振った。

「サージアとルアスは俺達に任せろ。な?」

……確かにそうだ。イシード帝国……カリムを討ち、オリビエを取り戻すまで死ぬわけにはいかない。

「……分かった」

グッと唇を噛んだ後、セシーリアが頷いた。

それから、

「シーグル、シーグル」

「っ!!」

セシーリアが勢いよくシーグルの身体に抱きついた。

ドン、という衝撃と共に彼女の髪がシーグルの腕にフワリとかかった。

それと同時に、薔薇を混ぜた蜜蝋の香りが漂う。

……セシーリア……。

自分の背中にまわる華奢な両腕と、僅かに震えるその身体。

たちまちシーグルの胸にあの日の光景が蘇る。

……あの日……三年前のあの日、兄さんを追いかけて城を降りた時……セシーリアの涙を見たあの時の誓いは今も変わらない。

セシーリアは俺が守る。

何があっても必ず。

俺の一生をかけて。

シーグルはセシーリアの背中に回しかけた手の行き先を変えると、身体を離して彼女の頬を包み込んだ。
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