ラティアの月光宝花
「セシーリア。大丈夫だ。俺がついてる。お前の事は俺が必ず守る。俺の一生をかけて」

いつしかセシーリアの背後にヨルマがピタリと寄り添う。

その射抜くような眼差しに、シーグルは眉を寄せた。

「何だよその眼は。生意気な猫だぜ」

その言葉に、口答えをするかのようにヨルマが両の牙を見せて鳴く。

「ヨルマ。こっちに来て」

セシーリアが手を伸ばすと、瞬く間にヨルマは眼を細め、頬を擦り寄せた。

「ヨルマ。あなたは私と戦ってくれる?私と戦場に出る勇気はある?」

当たり前だというようにヨルマが鳴いた。

しばらく見つめ合うと、セシーリアはヨルマに抱きついてその首を撫でた。

「ありがとう、ヨルマそれに」

セシーリアは一端言葉を切ると、マラカイトグリーンの瞳を悪戯っぽく光らせてシーグルを見上げた。

「シーグルもね」

…なんだよ、俺はついでかよ。

もう夕陽が城を染め上げ、辺りを情熱色に包んでいた。


****

「ライゼンとの協議の結果、一万は欲しいとの事だ」

軍議塔の円卓に、身を乗り出すように肘をついたマルケルスが皆を見回した。

四方にある窓からは爽やかな風が吹き入り、兵隊長達のマントをサラリと揺らしている。

イシードによる不意討ちのせいで約一万の死亡兵が出たが、前皇帝ロー・ラティアを慕う数多くの市民が、その数を有に越す程志願し、出兵を望んだ。

だが、残留兵一万五千の内の一万。

この数は首都警備隊及び国境警備隊を除いた数ではあるが……それでも決して少なくはない。
< 152 / 196 >

この作品をシェア

pagetop