ラティアの月光宝花
こうしてサージアはラティア帝国の本気の怒りに恐れをなし、早々に白旗を挙げたのだった。

サージア帝国皇帝ヨミルはアンリオンに拘束された際、イシード帝国に第一王妃を人質に取られ、従うしかなかったと必死の形相で訴えたらしい。

しかもこの先の忠誠を示すため、改めて永久不可侵条約に調印し、第二王子であるシドを差し出したのだ。

セシーリアは玉座から立ち上がるとヨルマの身体をスラリと撫でて口を開いた。

「第一王妃を人質にされたから?そんな言い訳は通じないわ」

そこまで言った後セシーリアは言葉を切り、コクンと喉を鳴らした。

それから大きく息をつくと、思いきったようにシーグルを見上げた。

「……現皇帝ヨミルは処刑する。お父様やレイゲン、その他大勢のラティア人を殺したんだから生かしてはおけないわ。それから第一王子のエストと第二王子のシドはラティア領内の孤島に幽閉する。もうサージアにはラティアの一部となる以外の選択肢は与えない。拒むというなら皇帝一族は全員殺す」

……セシーリア……。

シーグルが思わず眼を見張った。

視線を落とした先に、僅かに震えるセシーリアの指先が写ったからだ。

本当なら、セシーリアも同じ年頃の娘達のように恋やお洒落に余念がない日々を過ごせていたはずだ。

それなのに。

シーグルはセシーリアに腕を伸ばすと、その身体をトントンと撫でた。
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