ラティアの月光宝花
「この決定は当然だ。王子二人の命を助けるだけ有り難く思ってもらいたいところだ。恩を仇で返したのはサージアだからな」

「……うん……」

シーグルの体温を感じ、次第にセシーリアの震えが治まってくる。

「これは俺の予想だが、サージアは恐らくイシードと安全保証条約を結んだんだろうよ。奇襲をかけるためだけにサージアを利用したイシードに守る気なんか更々なかっただろうがな」

その可能性は大いにあった。

乾いた大地しかないサージアなど、不経済でしかないからだ。

「目先の安全に惑わされやがって」

「だからって……ラティアを裏切るなんて」

イシード帝国皇帝カリムの顔が、セシーリアとシーグルの脳裏に蘇った。

これもカリムの力なのだ。

革命を起こし、イシード帝国の皇帝にのしあがったカリムの力。

その力に無知なサージアは眼がくらみ早まってしまった。

「大国から庇護を受けることが最大の力じゃない。自国を守る力とは他国に頼るのではなく、自らが生み出さねばならないんだ。それをサージアは怠った」

セシーリアは身を起こすとシーグルを見上げてフワリと笑った。

「サージアなど敵じゃないわ。ラティアの敵はイシードよ」

「ああ。そうだな」

シーグルもまた、榛の瞳に柔らかい光を浮かべて微笑む。

「手は緩めないわ。引き続きルアスには容赦のない報復を」

……何はともあれこれで一歩イシード帝国に近付いた。

伝令係にマルケルスへの返事を伝えた後、セシーリアは口を引き結んで空を見据えた。
< 156 / 196 >

この作品をシェア

pagetop