ラティアの月光宝花
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サージア陥落の知らせは瞬く間に大陸中を駆け巡った。

それに伴いラティアには、庇護にあやかりたい近隣諸国からの祝辞や献上物が相次いだ。

それらの荷物と雪崩れ込むようにして凱旋帰国したマルケルスは、セシーリアの自室で盛大な溜め息をついた。

「さすが皇帝ラバトはタヌキ親父だぜ。いろんな国をたぶらかしてきただけの事はある。友軍が脇を固めていて下手な動きができない。どうするセシーリア。強行突破か話し合いか」

「……」

ラティアが同時討ちをはかったルアスは、サージアに比べると狡猾であった。

皇帝ラバトはラティア帝国に友軍の存在をちらつかせ、脅しともつかないような言い回しで休戦を促しはじめていた。

「マルケルス。ルアス帝国についた友軍の数は?」

「軍隊長殿の報告ではざっとみて約五万だそうだ。自国軍五万を足して十万ってとこらしい」

「……やっぱりね」

セシーリアの言葉にマルケルスが首を振った。

「やっぱり?」

「自国の軍が五万なんて少なすぎるでしょ?ルアスには十万以上の兵がいるのに。ルアス皇族の家系図は?」

「……これだ」

マルケルスが差し出した葦紙を広げると、セシーリアはそれに視線を落とした。

やはりそうだ。

以前見た家系図を再び確認すると、セシーリアはマルケルスに視線を合わせた。

「マルケルス。皇帝ラバトの年の離れた弟……どう思う?」
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