ラティアの月光宝花
ふたりを取り囲んだ男達はアデルとオリビエの健闘を称え、掌を打ち鳴らして歓喜した。

……終わった……よかった……!

全身の力が抜け、セシーリアにどっと疲労感が押し寄せる。

今更気付いたが、緊張のあまり全身にビッショリと汗をかいていた。

そのせいで、夜風に吹かれると夏の夜だというのに肌寒い。

「ハックシュン!……わっ!」

クシャミをひとつして一瞬閉じてしまった眼を開けると、練習場にいるオリビエと突然視線が絡んだ。

あ……!

オリビエは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐにセシーリアから視線を反らすとアンリオンを見つめて弾けるように笑った。

……オリビエ……。

なんと遠いのだろう、オリビエは。

それになんとバカなんだろう、私は。

セシーリアは手綱を引くと、もと来た方向へと馬の頭を返した。

オリビエが……あんなに強かったなんて。

オリビエは18歳だが、近衛兵の二番隊員であるアデルは21歳である。

近衛兵隊には20歳以上の男性で、厳しい試験に合格しないと入隊できない。

普通の18歳の少年が、負けこそしたが近衛兵をあんな風に本気にさせるなんて。

考えれば考えるほど、セシーリアは眉を寄せた。

……じゃあ何故……オリビエはいつも私に勝てなかったの?

当然だが女で17歳のセシーリアは、アデルの足元にも及ばない。
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