ラティアの月光宝花
「イエルド殿、軍の指揮を。ラティア帝国らしい戦いを期待しています」

「御意」

瞳を伏せて敬礼したイエルドの黒衣がヒラリとはためく。

「マルケルス。あなたにはイエルド殿の補佐を頼みます」

「任せろ」

マルケルスとイエルドが軍議塔を出た後、セシーリアは円卓に彫り込まれた薔薇の花に視線を落とした。

既に日は落ち、軍議塔の中に幾本もの蝋燭がともされ、セシーリアの頬を柔らかく照らしている。

「順調だな」

シーグルのそれには答えず、セシーリアは口を開いた。

「イシード帝国……カリムは今、なにを思っているのかしら」

「さあな」

シーグルは腰に手を当てるとイシード帝国の方向に視線を向けてニヤリと笑った。

「どう思おうといいさ。けど」

シーグルは一旦ここで言葉を切ると、腰のスティーダをスラリと引き抜いた。

「このラティアを本気で怒らせた代償はきっちりと払ってもらおうぜ」

「……そうね。そして」

二人は同時に沈む夕日を見つめる。

「オリビエを取り戻すわ」

「ああ」

セシーリアは奥歯を噛み締めると身体の後ろに手をまわし、守護神ディーアから譲り受けた弓の硬さをなぞるように確かめた。
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