ラティアの月光宝花
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ルアス帝国で内戦が勃発し、反旗を翻した王弟が現皇帝ラバトを処刑したのは、今から約一ヶ月前である。

「お前、本気なのか?」

シーグルは目の前の子供をシゲシゲと見下ろすと、溜め息をつき、わざと細めた両目をセシーリアにむけた。

「本気よ。ルルド王子は私が引き取る」

ルルド王子とはルアス帝国の第二王子であり、この度の内戦で処刑された皇帝ラバトの息子である。

「私の叔父をけしかけ、父を陥落させた罪滅ぼしのおつもりか、ラティアの女帝よ。なら検討違いというものだ」

「こらガキ!」

「いいのよ、シーグル」

ラティア城の地下牢であぐらをかき、黒目がちな瞳をこちらにむけるルルド王子をセシーリアは見下ろした。

「……」

「……」

互いに唇を引き結び、見つめ合っていたが、先に目をそらしたのはルルド王子であった。

「私を人質にしたとて、今後のルアス帝国との交渉に何の威力もない」

「……」

甲高い声を無理矢理低くし、一生懸命自らの威厳を保とうとするルルド王子の様子に、セシーリアは彼の苦悩を見た気がした。

「よく聞かれよセシーリア女王。私は父王であるラバトから一度も愛されなかった身。新皇帝となった父上の弟……つまり叔父からしたらその辺の塵にすぎない」
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