ラティアの月光宝花
「ルルド。私はあなたに死んでほしくないの」

「子供でも僕は男だ。僕がセシーリアを守る!」

なんだと?!

思わず目を見開くシーグルの前で、今度はセシーリアがルルドを抱き締めた。

「私もあなたが好きよ、ルルド」

「じゃあ、僕と結婚してくれる?」

「こら!ろくにスティーダも使えねぇガキの分際で女王に求婚なんざ百年早いんだよっ」

するとルルドは瞳に反抗的な光を宿し、敢然と言い返した。

「僕はこれから絶対に強くなる!それに僕はルアス帝国の元王子だ。身分的には釣り合ってる」

「はあっ?!」

互いにバリバリと睨み合うシーグルとルルドを見て、セシーリアは半ば呆れながらも笑った。

「さあルルド。とにかく今は宮殿に帰って汗を流してきて。お昼からは馬術でしょう?」

「……分かった……じゃあ行くよ」

侍従に連れられて練習場から出ていくルルドの後ろ姿を見ながら、シーグルは忌々しげに毒づいた。

「生意気なガキだぜ」

セシーリアは真上に近づきつつある太陽を感じながら、小さな声で言った。

「あの子……早く認めてもらいたいのよ。戦場で手柄をたてて、本当のラティア人として皆に認めてもらいたいんだわ」

「……」

「それに小さな頃のあなたにそっくり」

「っ……」

セシーリアがクスリと笑うと、シーグルは決まり悪そうに目をそらした。

そんなシーグルに抱き着くと、セシーリアは静かな口調で続ける。

「シーグル。あなたは逞しくなって戻ってきてくれた。感謝してる」
< 167 / 196 >

この作品をシェア

pagetop