ラティアの月光宝花
「同士討ちは疑心暗鬼の延長にうまれ、忍耐力のなさが招くものだ。他人を踏み台にしてのし上がった簒奪者がハマりやすい戦法だ。イシードの長はあのカリムだぞ?部下の器量もたかが知れてるだろうさ。しかももうイシードの同盟国……ディズール国内にはアルディン達《エルフの風》の面々が入り込み、兵士としてイシードの友軍に加わる手はずだ」

《エルフの風》とはラティア帝国屈指の優秀なグロディーゼ(剣闘士)養成所である。

「ディズール国は多民族国家で国としての歴史も浅く、試験にさえ合格すれば誰でも出身国を問われることなく兵士として働ける」

「アルディン達が……そうだったの……」

マルケルスは続けた。

「アルディン達には敵軍に内部の裏切りを疑わせる役目を担ってもらってる。ノリノリだったぜ」

「わかった。マルケルス、ありがとう」

「あとは敵を誘い込むガムズ河の底掘り、新しい武器開発。こちらの方もラティア全土から専門家を集めて作業中だ」

「……うん」

曇った顔のセシーリアに気付き、マルケルスが眉を上げた。

「どうした?」

「オリビエは……元気かしら」

「なに言ってるんだ」

変な間を作りたくなくて反射的にそう言ったものの、オリビエの命の確証などどこにもない。

「オリビエは無事に決まってる」

「ごめん、マルケルス」

「いいんだ」

マルケスがセシーリアを引き寄せると優しくその背中を叩いた。

「今俺たちが出来る事を目一杯やるんだ。後悔しないように」

「うん」

出来るだけ急がなければならないとマルケルスは改めて思った。
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