ラティアの月光宝花
なのにそんなセシーリアに、オリビエは毎回負けていた。

肩で息を繰り返し、いつも地に膝をついては「参りました。セシーリア様には敵いません」と……。

そこまで考えた時、セシーリアは屈辱のあまり全身がカアッと熱くなった。

私は……オリビエを打ち負かしたと得意になっていた。

なのに、なのに。

オリビエは、私に勝てなかったのではない。

『故意に勝たなかった』のだ。

セシーリアの全身が震えた。

途端にオリビエの、榛色の瞳が脳裏に浮かぶ。

今すぐ『何故』と問い詰めたい気持ちと、その答えを聞くのが怖いと思う矛盾した胸の内に、セシーリアは戸惑い、泣き出したかった。

練習場のすぐ隣にある近衛兵の宿舎の前で馬を降りると、そこで待っていたディオに手綱を渡し、腰のマントを外して返した。

「姫、宮殿までお送りします」

セシーリアの暗い表情に眉を寄せ、ディオは心配そうにそう言ったが、セシーリアは首を横に振った。

「大丈夫よ。散歩に出てきたの。だから歩いて帰るわ。馬をありがとう。マントも。嬉しかった。おやすみさい」

ディオはマントを受け取りながら、嬉しかったと言ったセシーリアを見つめた。

小さく形の良い輪郭に、知性を感じる額、通った鼻筋に大きな二重の印象的な瞳。

そのマラカイトグリーンの瞳は、一点の曇りもなく清々しく純粋で、誰もを魅了するほどに美しい。

均整のとれたセシーリアの後ろ姿を見つめながら、ディオは思った。

この娘がラティアの姫で良かったと。
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