ラティアの月光宝花
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「皆、よくやったぞ!完成まであと少しだ。今日は目標以上に進んだ!酒を用意してあるから楽しんでくれ」

エシャード内外から新路開拓作業に従事した労働者たちを労いながら、ライゼン・エシャードは今しがた伝令係の発した言葉に身体が震える思いだった。

ようやくグレイザの谷の先の新路に、完成の兆しが見え始めたのだ。

この新路が完成すればかなりの近道となり、軍の負担が軽減される。

ライゼンは、およそ一万の工兵と八千万エーゲルという資金のもと、実に一年という短期間で目標を達成出来た事が何よりも嬉しかった。

「セシーリア様もさぞかしお慶びなさることだろう。ライゼン、皆に充分な報酬と休暇を与えてやれ。それがまた活力となり良い仕事につながる」

皆を温かい眼差しで見回す父の横顔に、ライゼンはしっかりと頷く。

「もちろんです、父上」

ライゼンは視線を兵隊長に移すと、敬意を表し口を開いた。

「ディオ兵隊長殿、素晴らしいご活躍感謝申しあげます。厳しい環境の中、朝早くそして日が暮れるまで作業に従事くださったことにこのライゼン、頭の下がる思いです」

胸に手を当て僅かに頭を垂れたライゼンの肩に手を置くと、元近衛兵二番隊長……現在は三番工兵隊長のディオは明るく笑った。

「ライゼン殿、こちらこそ温かいお気遣い痛み入ります。エシャードに来てこのような名誉ある仕事が問題なく進んだのはライゼン殿のお陰です。きっとセシーリア様も一安心されるかと」

言い終えたディオは、約一年前、初めてセシーリアと言葉を交わした日を思い返した。
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