ラティアの月光宝花
『名前は?』

『ディオと申します』

『ディオ、悪いんだけど馬を貸して!』

『あ……しかし……はい!』

『あなた、優しいのね。ありがとう』

あれから一年の間に、随分と状況が変わってしまった。

豊かで幸せだったラティア帝国は首都を焼かれ、皇帝とその側近を殺されたのだ。

セシーリアの母……女王アイリスは未だ行方不明であるしオリビエ・ドゥレイヴはイシード帝国に囚われてしまった。

しかもそれらはセシーリアの記念すべき成人の儀を兼ねた誕生大祭典で起こった悲劇なのだ。

その日、ディオの運命も変わった。

敵国の侵攻を食い止めようと死に物狂いで応戦していたディオは、手首の筋を断たれ二度と剣を振るうことが出来なくなってしまったのだった。

剣を振るうことが出来ない兵士など、もう使い物にならない。

地方出身者のディオは、田舎に帰り家業を継ぐ以外道をなくしてしまったのだ。

そんなディオを見舞ったセシーリアが直々にこう切り出した。

『ねえ、ディオ。工兵隊長になってくれない?剣が使えなくてもあなたさえよければイシード帝国を討つ手助けをして欲しいの』

傷を負った自分を、セシーリアはまだ必要としてくれている。

真っ直ぐに自分を見つめるマラカイトグリーンの瞳に、ディオは即頷いた。

『有り難きお言葉。必ずやセシーリア様のお役に立つと誓います』
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