ラティアの月光宝花
「嫌よ!カリムの姿がこの眼に映ると同時に射殺してやる。そしてオリビエを取り戻すのよ」

徐々に平静を保てなくなっているセシーリアを目の当たりにし、マルケルスとシーグルは素早く視線を交わした。

それからマルケルスが出来るだけ穏やかな口調でセシーリアを諭す。

「セシーリア。もうじき日が沈む。ライゼン殿の軍には明日、俺が合流する。今お前に必要なのは十分な休息だ」

「私は疲れてなんかないわ!今すぐにでも、きゃあっ!」

「しつこいんだよ、お前は」

埒があかないこの状況にシーグルはイラつき、舌打ちをすると素早くセシーリアを抱き上げた。

「誰か女王に部屋を」

「こちらにご用意できております」

ギルーザの侍従がシーグルの先を小走りで進む。

「降ろして!降ろしなさい、シーグル!!ヨルマ!ヨルマ、助けてっ」

いつ何時でもセシーリアを守る大豹ヨルマが、この時ばかりはシーグルを見つめたまま地に伏せて動かない。

シーグルの味方をするヨルマを諦め、セシーリアは再び叫んだ。

「シーグル、降ろさない!」

「ああ、降ろしてやるよ」

「っ!」

通された部屋の寝台にセシーリアを放り出すと、シーグルは彼女に覆い被さりその両手首を掴んだ。

「どきなさい、シーグル!」

「ダメだ」

榛色の瞳に強い光を宿し、シーグルは至近距離からセシーリアを見据えた。

「俺がどうしてお前の傍にいると思ってるんだ」

低く静かな声に、セシーリアは胸を突かれる。

それからあの日……シーグルが城を出る直前、バラ園で交わした言葉が蘇る。
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