ラティアの月光宝花
『今はまだ、セシーリアを兄さんに預けておく。でもいずれセシーリアは俺が守る。兄さんよりも強くなって』


「シーグル」

「お前の事は俺が守る。この気持ちはあの日から……いや、もっと前からずっと変わらない」

「シーグル、」

力強かった眼差しが次第に切なく変化し、シーグルは僅かに両目を細めた。

「俺がお前を守る。お前が誰を好きでも」

「シーグル、待って、」

「ダメだ」

セシーリアの手首を束ね持つ手と反対の手で、シーグルが自分の腰袋を探る。

すぐにギルーザから手渡された睡眠薬が指に当たる。

それを見たセシーリアがシーグルを睨んだ。

「嫌よ、シーグルやめて!嫌いになるわよ」

「……嫌われてもいい。お前のためなら」

素早く小瓶を開けて口に含むと、シーグルは頬を傾けた。

腹の上に乗られ、セシーリアはどんなにもがいても逃れることができない。

「シーグ……」

端正なシーグルの顔が近付き、すぐに何か甘い液体がセシーリアの口内に充満した。

飲めば国境に向けて出発出来ない。

なのに強烈な疲労感と空腹がセシーリアを支配し始め、甘い甘いこの味に抗えない。

ああ、オリビエ。

コクンと喉を鳴らすと、徐々にセシーリアの身体から力が抜けていった。

そんな彼女を感じて、シーグルが唇を離す。

長い睫毛に縁取られたマラカイトグリーンの瞳が、瞬きもせずシーグルを見つめた。

『ごめん、セシーリア』

榛の瞳がこう告げた気がして、セシーリアは諦めて眼を閉じた。

それから、こぼれるように言葉が漏れる。

「シーグル。ひとりにしないで。傍にいて」
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