ラティアの月光宝花
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セシーリアとシーグルがライゼンの軍に合流したのは、エシャード城についてから三日後であった。

「マルケルス、状況は?」

一足早く到着していたマルケルスが額に手を当て、眼に当たる激しい風を避けながら口を開いた。

「第二弾のハヤブサによると、カリム皇帝は半日後国境に到着するらしい」

その言葉にセシーリアが頷く。

「他には?」

「わからない」

ガムズ河を越え東に広がる《黒色の原野》は、ラティアとイシードの国境である。

「そろそろイシードもこちらの動きを把握してるかもしれない」

「……いずれにせよイシードの要求は飲まない」

セシーリアの硬い声にマルケルスが答える。

「不思議なことにイシードの軍が確認できてないんだ」

シーグルが舌打ちし、かぶりを振る。

「軍が確認できない?!バカ言え!そんな事があるのかよ」

シーグルの言葉にマルケルスが声を荒げた。

「いや。軍を動かしてない可能性だってある」

その時、国境警備隊長が両手を高く掲げ、敵国の存在を知らせた。

「来たらしい。セシーリア、下がれ。ヨルマ、セシーリアを狙う者は咬み殺せ」

マルケルスの言葉を聞いたヨルマが、黒色の原野に身を落とした。

「見ろ。あの人数を」

小高い丘の上から見えるイシードの行列は、ほんのわずかな人間と数台の馬車であった。

野を見下ろすマルケルスが後方のライゼンに頷き、ライゼンは待機していた兵士達に合図を送った。

粒のようだったそれらが徐々に大きくなっていき、セシーリアの視界を占めていく。
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