ラティアの月光宝花
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「セシーリア様」

広く長い中庭をトボトボと歩き、一番大きなダビディアの樹のすぐ脇を通りすぎようとした時、小さな声と共に何者かがセシーリアの腕を掴んだ。

オリビエだった。

大回りしてセシーリアを待ち伏せしたオリビエが、乱れた息を整えながらダビディアの樹の陰に彼女を優しく引き込んだ。

「……なに」

セシーリアの表情は固く、その声は微かに震えていた。

オリビエは身を屈めてそんなセシーリアの瞳を覗き込んだ。

「どうして練習場に?」

低くて優しい声がセシーリアの耳に届く。

「……別に」

オリビエの逞しい肩や筋肉の張った腕がセシーリアの間近にあり、その首から滴る汗が蜂蜜色の光に反射して流れた。

たちまち鼓動が跳ね上がり、セシーリアは思わず顔を背けた。

「……離して。嘘つきは嫌いよ」

「セシーリア様」

徐々に感情を隠しきれなくなり、セシーリアは顔を歪めた。

「近衛兵相手にあんな風にスティーダを使いこなすなんて。お前は私をバカにしていたのね」

セシーリアの大きな瞳から涙がこぼれ、頬に一筋の線を描いた。

「僕はバカになど……」

「してるわ!いつもそう!お前は私を疎ましく思っているのでしょう?!ならもう護衛役も世話係にもなってもらわなくて結構よ!」

「セシーリア様」

「オリビエ。お前とはもう会いません」

「待ってください、セシーリア様!僕は……」

セシーリアは身を翻すと一気に走り出した。

脇目もふらず、宮殿を目指し、自室に飛び込むと寝台に突っ伏して泣いた。

あまりにも小さな恋が砕けて粉々になり、胸に突き刺さるようで、セシーリアは泣くより他にどうすることも出来なかったのだ。
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