ラティアの月光宝花
シーグルとマルケルスの会話に、セシーリアは唇を引き結んだ。

「それは?」

息を吸い込み国境の向こうにいるカリムのもとへ声を飛ばすと、セシーリアは彼らを凝視した。

「まずは受け取っていただこう」

低く響いたカリムの声に、ライゼンが兵士数人に指示を出す。

「運べ」

馬車から降ろし担ぎ運んだ荷物を国境に置くと、すぐ元の位置まで下がったイシードの使者を見て今度はラティアの兵士が置かれた箱に近付く。

「行李(こうり)のようだな」

近付いてくる箱が何か見定めようと、シーグルが両目を細めた。

数人で抱えてようやく運ぶことができる大型の行李がセシーリアの前まで運ばれると、彼女は馬から降りて口を開いた。

「シーグル、確認を」

「分かった」

頷いたシーグルが、掛けられていた分厚い布に手を伸ばすと、木製の行李に埋め込まれていた宝玉が太陽に反射し、キラリと光った。

ようやく露になったそれは二段式で、下段はいくつかの扉がついているが上段は全体がひとつの収納箱といった感じである。

シーグルが兵士と共に、ゆっくりと上部の蓋を押し上げた。

「あっ!こ、これは……!」

シーグルと共に上段の中身を覗き込んだ兵士が、驚きのあまり眼を見開き声をあげた。

その様子に、マルケルスが騎乗のまま箱に近づき中を確認する。

「っ!」

「どうしたの」

「来るな、セシーリア!」

悲鳴のようなシーグルの声に、セシーリアがビクリと背を震わす。

「シーグル?」

セシーリアの問いに答えないシーグルは、中身を凝視したまま微動だにしない。

なに、この状況は。
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