ラティアの月光宝花
第六章
消えた皇帝
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「……セシーリア。形見として何も持たなくていいのか?」
ラティア帝国エシャード城内の神殿で、シーグルが遠慮がちに尋ねた。
「うん、いいの。剣はシーグルが使った方がオリビエも喜ぶと思うし、装飾品はその腕輪だけだもの。どちらもシーグルが持っておくべきだわ」
中央にそびえ立つ守護神ディーアの像を見上げたセシーリアの表情はスッキリとしている。
シーグルはそんな彼女を見て僅かに両目を細めた。
「シーグル?」
返事を返さないシーグルに視線を移したセシーリアの瞳には、やはり一筋の曇りもない。
「……いや。ならいいんだ」
ぎこちなく横を向いたシーグルの顔が苦し気で、セシーリアは反射的にあの日を思い返した。
あの日……イシード帝国のカリムに、オリビエの亡骸を返されたあの日。
***
一ヶ月前。
「畜生っ!カリムめ、覚えてろ!イシード帝国を見る影も無いほど壊滅させてやる!」
オリビエの遺体をエシャード城に運んだセシーリア達は、この信じたくない状況にかき乱れた。
中でも弟であるシーグルの怒りは時間が経つほどに大きくなっていき、エシャード城についた頃には怒髪天を衝く勢いに膨れ上がっていた。
正直、本人もどうやって国境から帰ってきたのか覚えていないほどである。
「セシーリア様、侍医にご遺体が本当にオリビエ殿かどうかを判断させましょう。既に待機させておりますゆえ」
ライゼン・エシャードの言葉に大臣ケルグが素早く反応し、身を翻した。
「……」
棺に移された遺体を見つめながら、セシーリアは漠然と思った。
きっちりと巻かれたアマ布から僅かに覗く髪は、確かにオリビエの髪色である。
「……セシーリア。形見として何も持たなくていいのか?」
ラティア帝国エシャード城内の神殿で、シーグルが遠慮がちに尋ねた。
「うん、いいの。剣はシーグルが使った方がオリビエも喜ぶと思うし、装飾品はその腕輪だけだもの。どちらもシーグルが持っておくべきだわ」
中央にそびえ立つ守護神ディーアの像を見上げたセシーリアの表情はスッキリとしている。
シーグルはそんな彼女を見て僅かに両目を細めた。
「シーグル?」
返事を返さないシーグルに視線を移したセシーリアの瞳には、やはり一筋の曇りもない。
「……いや。ならいいんだ」
ぎこちなく横を向いたシーグルの顔が苦し気で、セシーリアは反射的にあの日を思い返した。
あの日……イシード帝国のカリムに、オリビエの亡骸を返されたあの日。
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一ヶ月前。
「畜生っ!カリムめ、覚えてろ!イシード帝国を見る影も無いほど壊滅させてやる!」
オリビエの遺体をエシャード城に運んだセシーリア達は、この信じたくない状況にかき乱れた。
中でも弟であるシーグルの怒りは時間が経つほどに大きくなっていき、エシャード城についた頃には怒髪天を衝く勢いに膨れ上がっていた。
正直、本人もどうやって国境から帰ってきたのか覚えていないほどである。
「セシーリア様、侍医にご遺体が本当にオリビエ殿かどうかを判断させましょう。既に待機させておりますゆえ」
ライゼン・エシャードの言葉に大臣ケルグが素早く反応し、身を翻した。
「……」
棺に移された遺体を見つめながら、セシーリアは漠然と思った。
きっちりと巻かれたアマ布から僅かに覗く髪は、確かにオリビエの髪色である。