ラティアの月光宝花
****

「ご苦労様でした、イエルド殿。兵達には十分な食事と休息を与え、労ってやって下さい。後で私も直接感謝の気持ちを伝えに行きます」

「ありがたき幸せに存じます。では私は先に持ち場へ戻ります。いつでもすぐに動けるように待機しておきますのでご心配なく」

踵を返したイエルドのマントがヒラリと風になびいたのを眼の端で捉えた後、セシーリアは立ち上がった。

オリビエの葬儀後すぐに、ラティア軍はイシード帝国に侵攻した。

急ピッチで進められた新路の開拓や兵士の戦闘強化訓練、新たな戦略はことごとく成功し、徐々にイシード帝国を追い詰めていったのだ。

なかでもマルケルスの開発した大型の戦闘武器は扱いやすい上に建物破壊の威力が増していて、ほんの数時間で主要三都市を陥落させる程であった。

ところがである。

「カリムは今どこに?そろそろ討ちに行きたい」

張り巡らされた陣幕から出たセシーリアは、夕日の中に立つマルケルスの背中を見てこう言った。

「いや、まだ掴めてない。密使の情報によればある日を境にカリムの居所がまるで掴めなくなったらしい」

振り向いて首を振ったマルケルスは、再び眉を寄せてガムズ河の対岸を見つめる。

「雲隠れか?!意気地無しめ」

シーグルが忌々しげに鼻を鳴らし、セシーリアは唇を引き結ぶと空を見据えた。
< 189 / 196 >

この作品をシェア

pagetop