ラティアの月光宝花
「同士討ちもうまくいったし、ガムズ河の底掘りのお陰で誘い込んだ敵兵を半分に減らせた。しかも三都市に奇襲をかけて攻め落とし、ラティア軍が占拠したというのに、何故カリムは姿を現さないんだ」

シーグルがマルケルスとセシーリアを交互に見つめながらこう言うと、彼女は僅かに両目を細めた。

……カリムのあの性格からして、こそこそ隠れまわりはしまい。

前皇帝を殺して成り上がったような人間が劣勢を理由に逃げ回って姿を現さないなど、軍全体の士気が下がるというものだ。

イシード帝国に対し攻撃を開始してから、もう三ヶ月が経つ。

……カリムは一体どこに。

「捜しに行きましょう。そして息の根を止めてやるのよ」

「待て、セシーリア。あとしばらくでアルディンが戦線から離脱し一旦帰還する。その時に詳しい状況を確認して策を練ろう。もしかしたら密使が手に入れたイシードの地図にはいくつか軍事上の要衝が描かれていなかったのかもしれない」

「……じゃあ、偽物の地図をつかまされたの?」

「その可能性はある。どの国にも敵を欺く偽の地図は存在するから」

セシーリアは唇を噛んだ。

主要都市を三ヶ所も壊滅させたというのに、カリムはセシーリアの前に姿を現さないどころか使者もよこさない。

おまけにイシードの首都に潜入している密使も忽然と消えたカリムを血眼になって捜しているが、足取りを掴めていないままである。

カリムは一体何を考えているのだろう。

「焦りは禁物だ、セシーリア」

赤い赤い太陽が、セシーリアの心を焦らしている。

その夕日を背にしてこちらを見下ろすマルケルスの表情は、逆光で見えない。

「……分かった」

今のセシーリアにはこう答える他なかった。

けれど。
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