ラティアの月光宝花
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翌日。

「セシーリア様にご伝言です」

亜麻布を縫い合わせ、幾重にも重ねて接着した鎧を身につけると、セシーリアは最後にマントを羽織った。

そんなセシーリアの耳に、伝令係のよく通る声が響いたのは早朝の事である。

陣幕の入り口に跪く人影が浮かび上がり、セシーリアは待機している護衛兵に頷く。

「入って」

「はっ」

姿を現した伝令係が身を低く構えたかと思うと、早口で告げた。

「マルケルス様からのご伝言です。アンリオン様、シーグル様と共に、暫く陣を離れると」

マルケルスとアンリオン、それにシーグルが?!

驚きのあまり身を翻したセシーリアのマントが、朝の日差しに光った。

「何故?!」

彼はかぶりを振るとぎこちなくセシーリアから顔を背けた。

「分かりません。ですが帰還されたアルディン殿が陣に加わるので心配ないと……」

わからない?!

セシーリアは信じられない思いで伝令係を見つめた。

分からないなんてあり得ない。だって、本陣内の伝令係じゃないの。

身内の事情なら理由までしっかりと把握し、伝えるのが当たり前だ。

しかもその相手は女王である。

セシーリアは苛立つ心を抑えながら伝言係を見下ろした。

それから無意識に眼を細める。

よく見れば……この伝令係には見覚えがある。

……そうだ。この伝令係は幼い頃、よくマルケルスといた。

名前は……確かシモン。

シモンの父親も、マルケルスの父……ユリウス・ハーシアと行動を共にしていた。

シモンの伏せた瞼が、不安げに揺れている。

謎が……解けた。

「あなたの家は代々、ハーシア家に支えているわよね?」

コクン、と彼が喉をならした。

「シモン」

まさか女王に名前を覚えられているとは露にも思っていなかったシモンは、ビクリと身体を震わせた。

それから、澄んだ湖のようなセシーリアの瞳を見つめる。
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