ラティアの月光宝花
「シモン。あなたがマルケルスを兄のように慕っているのは知ってるわ。けれど、もしも何かを知っているのなら、あなたは真実を伝えなければならない。ラティアの為に」

ラティアの……ために。

全身の震えが止まらず、シモンの心臓に痛みが走る。

セシーリアは地に膝をつくと、そんなシモンの顔を覗き込んだ。

一方シモンは、自分の為に膝を汚したセシーリアに驚き、更に低くひれ伏す。

「シモン、これはとても大切な事なの。私の為じゃなくていい。ラティアの為に知っていることを教えて欲しい」

ああ、俺は……!

浅はかな自分を憎らしいと思いながら、シモンは奥歯を噛み締めた。

「私を殺してください!」

強い感情を浮かべたセシーリアを目の当たりにし、シモンは自分の罪の深さを知ったのだ。

いくらマルケルスに仕えていても自分の命はラティア……セシーリア女王に捧げるべきだ。

自分の伝言一つで、ラティアの運命が決まるかもしれないというのに、俺は……!

「セシーリア女王、俺を殺してください!」

後悔の光を宿したシモンの瞳に、セシーリアは胸を突かれた。

マルケルスとシモンの間には、きっと私が知りえない歴史がある。

シモンは、マルケルスの頼みなら断れないのだ。

セシーリアは、後悔を顕にしているシモンを見つめながらグッと唇を噛んだ。

シモンの忠義を、こんな形で逆手にとり彼を苦しめたマルケルスが腹立たしい。

おぼえてなさい、マルケルス!ただじゃおかないから!

セシーリアは大きく息をつくと、少しだけ体の力を抜いた。

それから諦めたように笑う。

「バカね!あなたを殺したら私がマルケルスに一生恨まれるわ」

そんなセシーリアを見て、シモンは苦し気に顔を歪めた。

やはり、このマラカイトグリーンの瞳に嘘はつけない。

どうかお許しを……マルケルス様。

「恐れながら申し上げます」

シモンは瞳を伏せてこう切り出すと、思いきったように告げた。
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