ラティアの月光宝花
「……マルケルス様は……イシード帝国へ……カリム皇帝に会いに行かれました。これ以上の詳細は分かりません。しかもこれも偶然聞こえてしまって、」

「……なんですって……?」

シーグルと話したのは昨日の夕方だ。

『悪いが俺は忙しいんだ。また後でな』

私にこう言った時、皆でイシードへと向かう直前だったの?!激しく心臓が脈打ち、セシーリアは思わず片手で胸を押さえた。

喉が締め上げられたように苦しい。

目眩がしそうになり思わず眼を閉じるも、セシーリアは出来るだけ落ち着こうと努力した。

大きく息をし、ゆっくりと考える。

……アルディンが数週間早く帰還したのに、それをシーグルは知らないと言い、いくら探してもマルケルスはつかまらず会えなかった。

おまけに帰還したはずのアルディンは真っ先に会わなければならない女王に姿をみせない。

一度呼びつけたが、マルケルス達が抜けた穴埋めに忙しいと、代理の者がやってきたのだ。

そこまで考えた時、背中を冷や汗が伝った。

マルケルスは……皆は何を隠しているの?

いや、そうではなく、ただの偵察かも。

でもだとしたら、自らが赴かなくとも斥候を使えばいい。

ううん、絶対に隠している、なにかを。

隠していなければこんな風に黙ってイシード帝国に向かうなどありえない。

しかも姿をくらました皇帝カリムに会いに行くなど。

考えれば考えるほど、自分とマルケルス達の立っている地面に歪みが生じ、みるみる離れていくようだ。

「シモン、アルディンを連れてきて。ただし私だと言わず、エシャード城主ライゼンの名で」

シモンはしっかりと頷いた。

「はい!」

「呼び出して欲しい場所は……」

胸が痛いほど苦しく、息がしにくい。

セシーリアはアルディンの整った顔を思いながら、絶対に真実を突き止めようと決意した。
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