ラティアの月光宝花
***

アルディンはエシャード城に到着すると馬宿に寄り、馬丁に手綱を渡して空を見上げた。

それから小さく息をつくと、すぐにライゼンの待つ軍議の間に歩を進める。

伝令係のシモンがアルディンの元を訪れたのは早朝のことであった。

マルケルスが不在であるため、ライゼンがこの先一ヶ月の軍事計画を説明したいというのだ。

軍人ではないアルディンには、ひと月不在となるマルケルスやアンリオンの代わりはできない。

ライゼンが力を貸してくれるなら好都合だと思った。

だが、不在の理由をなんと説明する?

城内を北に進んでいくアルディンは、ライゼンにどう切り出すかを考えながら列柱のそびえ立つ中庭に足を踏み入れた。

その時である。

「っ!!」

後方から、何かがアルディンの右の頬をかすめた。

慌てて屈むと、転がるように移動して列柱に身を隠し、息を止める。

……今の感覚は……弓矢だ。

敵が城に?!まさか。

「なぜ私に姿を見せなかったの?」

……しまった。

その声を聞いたアルディンが、天を仰いだ。

**

高くなりだした太陽が列柱の影を徐々に短く変化させる中、そこに立つセシーリアは静かに声を響かせた。

「あなたが帰還したあとすぐマルケルス達がイシード帝国へとたった。どういうことなの?」

セシーリアは前方を見据え、弓を構えた。

列柱の影から姿を現したアルディンの背後に、大豹ヨルマが立ち塞がる。

そんなアルディンに狙いを定めると、セシーリアはグッと弓を引いた。

「セシーリア様」

「答えなさい。マルケルス達と、何をコソコソとやってるの?」

「……」

唇を引き結んだままのアルディンを見て、セシーリアが本当に矢を放った。

「……っ!」

一瞬にしてアルディンの左の頬に、一本の赤い線が走る。
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