ラティアの月光宝花
第一章
小さな恋
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「オリビエ!魚を釣りにいきましょう!」
セシーリアの声に、オリビエはギクリとして息を飲んだ。
爽やかな風が城内を吹き抜け、宮殿の前の池の水面をキラキラと揺らしている。
そんな光景を見る余裕などなく、オリビエは慌てて首を横に振った。
その拍子に、彼のサラリとした絹のような髪が揺れ、湿気を纏った唇にその数本が貼り付く。
「セシーリア様、ダメです。僕が父上に怒られてしまいます」
セシーリアはその答えに眉を寄せて思った。
……本当にオリビエは面白くないわ。
自分の父親であり、ラティア帝国きっての軍師でもあるレイゲンの眼に、オリビエは怯えているのだ。
「オリビエ。レイゲンには私からちゃんと言ってあげるわ。それでお前も怒られなくてすむでしょう?」
「いえ、でも」
オリビエは、勝ち気なマラカイトグリーンの瞳を直視できなくて、斜めに視線をそらした。
内心は不満だらけだ。
セシーリアは、まるで分かっていないんだ。
それじゃダメなんだよ。
ラティア帝国の国王に仕える父上が、国王のひとり娘で王女であるセシーリアに首を横に振るわけがない。
……けれどどうせ、後で僕が叱られるんだ。
でも、セシーリアは僕に皺寄せが来るなんて微塵も予想していない。
ああ、これを許してしまうと、僕はまた父上にこう言われるんだ。
『オリビエ。お前はセシーリア姫の護衛兼世話係だ。そのお前が姫に振り回されてどうする?!これでは代々ラティア王家に仕える我がドゥレイヴ家の名折れだ』
父……レイゲン・ドゥレイヴは、いつもオリビエにこう言っては彼を一瞥するのだ。
「オリビエ!魚を釣りにいきましょう!」
セシーリアの声に、オリビエはギクリとして息を飲んだ。
爽やかな風が城内を吹き抜け、宮殿の前の池の水面をキラキラと揺らしている。
そんな光景を見る余裕などなく、オリビエは慌てて首を横に振った。
その拍子に、彼のサラリとした絹のような髪が揺れ、湿気を纏った唇にその数本が貼り付く。
「セシーリア様、ダメです。僕が父上に怒られてしまいます」
セシーリアはその答えに眉を寄せて思った。
……本当にオリビエは面白くないわ。
自分の父親であり、ラティア帝国きっての軍師でもあるレイゲンの眼に、オリビエは怯えているのだ。
「オリビエ。レイゲンには私からちゃんと言ってあげるわ。それでお前も怒られなくてすむでしょう?」
「いえ、でも」
オリビエは、勝ち気なマラカイトグリーンの瞳を直視できなくて、斜めに視線をそらした。
内心は不満だらけだ。
セシーリアは、まるで分かっていないんだ。
それじゃダメなんだよ。
ラティア帝国の国王に仕える父上が、国王のひとり娘で王女であるセシーリアに首を横に振るわけがない。
……けれどどうせ、後で僕が叱られるんだ。
でも、セシーリアは僕に皺寄せが来るなんて微塵も予想していない。
ああ、これを許してしまうと、僕はまた父上にこう言われるんだ。
『オリビエ。お前はセシーリア姫の護衛兼世話係だ。そのお前が姫に振り回されてどうする?!これでは代々ラティア王家に仕える我がドゥレイヴ家の名折れだ』
父……レイゲン・ドゥレイヴは、いつもオリビエにこう言っては彼を一瞥するのだ。