ラティアの月光宝花
セシーリアの作戦はこうだった。

要は、午後一番に集まる数多くの荷馬車は跳ね橋が降りるまでの時間を、手前の待ち合い場で待機する。

そこに紛れ込んで、荷馬車に乗り込もうというのだ。

紛れ込むのは跳ね橋が降りる寸前。

早すぎると待機場の荷馬車の数が少なくバレてしまう。

「いい?一番後ろの荷馬車に乗るからね。服は出来るだけ目立たないのを着るのよ」

「分かった」

「じゃあ、後でね!」
 


*******

「セシーリア、君は天才だね」

「そう?ひどく質素な作戦だけど」

シーグルは魚釣りの時と同様、笑い出しそうになるのを必死で押し殺した。

セシーリアとシーグルが乗り込んだ荷馬車は、漁師町からの荷馬車だった。

荷台には空になった木箱が何箱も乱雑に積まれていて、生臭ささえ我慢すれば身を隠すのに十分であった。

荷馬車に揺られること数十分の後、セシーリアは荷馬車が減速したのを感じると、シーグルに声をかけた。

「シーグル。飛び降りるわよ」

「え!?」

セシーリアは軽くシーグルを睨んだ。

「『お忍び』って言ったでしょ?!私が御者に馬車を停めてとお願いするとでも?」

シーグルは荷台を覆う麻の隙間から、小さくなっていく人々や建物を見てゴクリと生唾を飲んだ。

「……今?」
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