ラティアの月光宝花
呟くように言ったシーグルを、セシーリアが冷めた眼で見た。

「今じゃないと街の外れの漁港まで行っちゃうじゃないの。あなたまさか漁をしに来たんじゃないでしょうね」

「そんなわけないだろ」

「男でしょ?しっかりなさい!」

「わ、わかってるよ!」

「行くわよ!」

いつもそうだ。

シーグルの前でセシーリアは、いつも潔く逞しい。

歳上とはいえ、いつまでも女の子であるセシーリアよりひ弱だと思われるのは俺だって嫌だ。

「わかった」

シーグルは歯を食い縛った。

飛び降りたときの衝撃を少しでも和らげようと、全身に力を込める。

その時二人に味方するように運良く、対向する馬車の為に御者が手綱を引いた。

「今よ!」

「……っ!」

大きく減速したのを見計らうと麻布をめくり上げ、二人は荷台から飛び降りた。

二人して仲良く尻餅をついたものの、大した衝撃もなく無事に計画は成功した。

互いに顔を見合わせるとたちまち笑いが込み上げてくる。

「あはははは!やったわね、シーグル!」

あ……。

ドキンと鼓動が跳ねて、シーグルはそんな自分に驚いた。

それから、天を見上げて大きく口を開け、心から楽しそうに笑うセシーリアを見て、シーグルは眼を見張った。

セシーリア……。
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