ラティアの月光宝花
「ああ、もう!お前はいつもそうね!なんてナヨナヨしているのかしら!」

大袈裟に溜め息をつき、普段は大きな眼をわざと細めてセシーリアがそう言うと、オリビエは突っ立ったままとうとう俯いてしまった。

屈辱のあまり眼の縁を赤く染めて。

その時、

「セシーリア、じゃあ俺と行こうよ!」

ジャリッという音が二人の後方からしたと思うと、ダビディアの樹が一際揺れた。

「まあ、シーグル!また木登り?」

「そ。ここからの眺めは格別だからね。そんな事よりセシーリア、俺と魚釣りに行こう!兄さんなんかほっといて」

オリビエよりも少し濃い榛色の瞳が勝ち気な輝きに彩られていて、それがシーグルの無邪気さを物語っている。

「シーグル!お前はあっち行ってろ!」

シーグルの言葉にオリビエがムッとして口を開いた。

「そうね、シーグル。行きましょう」

「うん!セシーリア!」

「……待ってください、セシーリア様」

焦ってそう言ったオリビエを、セシーリアは憮然とした顔で見ると、冷たく言い放った。

「オリビエは付いてこなくていいわよ。せいぜいレイゲンのご機嫌でもとっておけば?シーグル、行くわよ」

「うん、セシーリア」

取り付く島もない。

オリビエはポツンと中庭に取り残され、弟と王女の遠ざかる後ろ姿をただ見つめる事しか出来なかった。

******

セシーリアは面白くなかった。

……なぜオリビエはああなんだろう。

いつも一歩引いた場所にいて、私を腫れ物のように扱う。

いくらセシーリアが近づこうとしてもその分だけ下がり、オリビエは一定の距離を保ち続けているのだ。
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